八重山の風雲児たち

家主

2005年11月01日 14:29

八重山商工が九州高校野球大会で見事ベスト4に進出。来年春のセンバツをほぼ確実にしました。

一言で言うと、不思議なチームです。

確かに少年野球の八島マリンズで全国優勝し、硬式野球のポニーリーグでは全国優勝にくわえて、世界大会3位と、大舞台の経験では他に並ぶものがないほどのものを持っています。

そして、八島マリンズの監督だった伊志嶺吉盛監督が、石垣市の野球監督派遣事業で
八重山商工野球部監督に就任。
再び、選手たちは、かつての指導者の指揮下に入ったわけです。

練習を見に行ったとき、伊志嶺監督は苦笑いして話してくれました。

「あまりにも、長く近くにいるものだから、怒鳴っても、子供たちに先を読まれてしまっている」

練習中も、大声を出しているのは監督だけ。

しかし、グラウンドに立つと強いんです

練習のときも、ほとんど声が聞こえてこない。
監督が怒鳴っているのは聞こえても、それが届いているのかどうか良くわからない。
正直、結構ずぼらなプレーもある(ここは直して欲しいですけど)。

それでも強いんです

でも、この九州大会。彼らは休むことなくずっとグラウンドで声を出し続けています。
伊志嶺監督に伺うと、九州大会を前に

「お前たち、こんなことで良いのか?甲子園にいきたいのか?」

と、問いかけたんだそうです。

「行きたいです!」

「行きたいんだったら、こんなことじゃ駄目だろう」


そして九州大会。全員が、声を出しています。
そして、恐らくこれまで見てきた中で、一番チームに元気が出た大会ではないでしょうか。

九州高校野球。県の第3代表というのは、同じ代表といっても苦しいスタートになります。
2試合しかない「1回戦」からのスタート。センバツ当確のベスト4に残るには3連戦で3連勝
しなくてはいけません。

しかし、初戦、2戦目と九州の強豪に圧勝。


とはいえ、彼らはつぎはぎチーム

本来のエース大嶺君は、今年になって肩痛で満足に投げていないし、本来中軸を打つ羽地君は足首を痛めて、県大会には参加することすら出来なかった。
秋の県大会でも、準々決勝の浦添商業戦ではけが人が続出。
まさにつぎはぎだらけでした。

2回戦を突破したあと、監督にインタビューしました。
話が一段落したあと、大嶺君登板の有無について話を向けてみました。

というのも、投球練習もやっているし、本人も「短いイニングならイケル」と
言っていたからです。

でも監督は言いました。

「指揮官としては投げさせたい。でも指導者としては投げさせたくない。複雑です」

翌日、2度の甲子園出場を果たしている、大分・明豊とベスト4を賭けて戦った八重山商工。
前半で3点のビハインド。
ふつうだとヘコム展開です。

でもそんな途中経過を聞きながら、私は以前、監督がいっていたことを思い出していました。

「この子達は、大きな舞台を経験してきているせいか、どんなに点差をつけられて負けていても、
負けるということを考えないみたいです」

そして8回、背番号11番をつけた大嶺君がマウンドに登場。
投入のタイミングとしても最高でした。

最後まで負けるはずがない。最後まであきらめない。まさにそれが試合に出ました。
9回裏、土壇場で集中打が出て同点に追いつきます。

そして三者三振。その後延長12回まで相手にヒットを打たせませんでした。

その裏、満塁から相手の暴投でサヨナラ勝ち。
完全に気持ちで勝っていました。

九州大会で打棒爆発の背番号1、金城長靖くんは準決勝のあと、こう言っていました。

「Q:大きな舞台を経験してきているから、こういう舞台は君たちにはちいさいんじゃない?」
はい、ちいさいです

この子達は舞台が大きくなればなるほどでっかくなる。


資金面で大変な彼らを地元で支える「夢実現甲子園の会」の平得さん(事務局長)が大会前、
「この子達なら、九州大会の優勝もあるかもしれません、いや、甲子園が決れば甲子園でも優勝するかもしれません」と言っていたのを、「まさか~。すごい盛り上がりようだな~」と思って聞きましたが、ひょっとすると本当かも知れません。

まったくの自然体。
八重山の怪童たち。

ひょっとすると、一番高校野球を楽しんでいるのは、彼らかもしれません。

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