確かに「拳伝説」

家主

2006年06月11日 20:15

沖縄コンベンションセンターで行われたボクシング興行「拳伝説」を見てきた。
注目していた翁長吾央の試合が、相手の体調不良で中止になってしまったのは残念だったが、
沖縄ワールドリングの看板選手が相手を次々に倒し、会場は大いに湧いた。


後姿のコマンド岸本選手。本名の憲明からリングネームを変えて2戦目になるだろうか。
リングネームそのままの「コマンド」だった。
幸先良くダウンを奪ったものの、インドネシアの選手が出した右を、見事に貰ってひざを突いてしまったときは、どうなることかと思った。
だが最後にはいかにも重たい右フックが相手のテンプル(こめかみ)にヒットしてジ・エンド。

でも本人に聞いたら

「テンパッテて、良く覚えてません」だって

何も、ジブンから相手のパンチを貰いに行かなくてもいい。
パンチの破壊力がすさまじいだけに、もっといい意味で性格を悪くしてほしい。



中真光石は1ラウンドで3回のダウンを奪いTKO。高校・大学と同期の翁長と比較されることが多いが、ここに来てKO率が上がってきた。

きょうはタイ国フェザー級1位の相手のガードも難なく打ち抜いて、これで8戦無敗4KO。


「まだまだです」とは言っていたものの、その表情からは、確かな実感を掴み取ってきたように感じた。


次あたりは世界ランカーとの試合になってくるだろうか。
正念場になる。






現在日本Sフェザー級9位の竜宮城(りゅうみやぎ)。
WBC4位で、元Sバンタム級で世界のベルトを巻いたこともあるタイのシンワンチャーを倒した。

これで世界ランクにも上位で顔を出してくることになるだろう。
いかつい外見(失礼)とは裏腹に、普段は

「ラジオ聞いてますよ!」

などと声をかけてくる気さくな男だが、その精神力はすごい。
何しろきょう、右の親指が骨折した状態で試合に臨んだのだ。
痛み止めを打つタイミングも、試合に合わせたが、それでも後半はしびれていたという。

しかも相手のセコンドに聞くと、シンワンチャーは「倒れない」事で有名な選手。
49戦して45勝20KO3敗1分。なにしろ世界を盗ったことのある男である。

だが竜宮城は体勢を低くして時折強烈なフックを放つ元チャンピオンの
唯一の弱点がボディであることを見抜き、
序盤からフックを多用。
最後は6ラウンド、強烈なボディフックの直後、耐えられなくなった相手が自らマットに沈んで行った。

遅咲きの選手だが、ゆっくり拳を癒して、世界チャンプだけが住める本当の「竜宮城」を目指してほしい。





翁長吾央は、来月16日照屋ホールで仕切り直しの試合が待っている。

モチベーションを保ち続けるのは大変だろうが、
天下を取れる器である。


軽量級のサウスポーといえば具志堅以来の沖縄ボクシングの伝統。
階級的にも、行く先にはあの亀田兄弟がまっている。


静かな男の闘志に期待してほしい。




そんな会場で珍しい男に会った。
根間仁。
高校時代はアマチュアの頂点に立ったこともあるボクサーである。
強烈な左のボディフックがまぶたの裏に焼きついている。
白井具志堅ジムでデビューしたが、この男、基本的に目立ちたがり屋であった。

ロープを飛び越えて入場し、トレーナーにドつかれた事もある。
田舎のジムだったら違ったかもしれないが、東京には誘惑がいっぱいだった。

彼は誘惑に負け、試合にも勝てなくなって、リングから姿を消した…。


5年ぶりにあった根間の横には、奥さんと息子がいた。
息子の名は、自分の名に「こころざし」という字を加え「仁志(じんと)」君というのだそうだ。

「いろいろあったけど、ボクも大人になりました」という根間。

いま、仕事の傍ら沖縄ワールドリングに通い、5年ぶりの試合をする予定だという。

「子供に見せたいんです。自分がリングに立っている姿を…」という根間。

わが子につけた名前には、自らが一度は挫折した夢を、どんな形でもやり通してほしいという
願いがこめられている気がした。