土方　浄の「スコアブックをもう一度」

人間の価値というのは、人生が終わったときに決まるものなのだろう。
もちろん、その光景を本人は〝生きて〟見ることは出来ない。
だが、周囲も改めてその偉大さを知ることになる。

きょう行われた、沖縄水産高校野球部監督・栽弘義さんの告別式。
３０００人以上が「名将」に、最後の別れを告げた。

告別式というのは、故人のおかげで、何年かぶりに懐かしい人と出会うチャンスでもある。
きょうは沖水の８８年ベスト４のメンバー、
９０年９１年の準優勝メンバーと久しぶりに会った。

中には「とっつぁん」になってしまったヤツもいた。
でも彼らは今でも監督を「怖い」存在だという。
きっと、栽先生はそんなインタビューを笑顔で見下ろしていただろう。

会場には、樟南高校の櫨山監督や、宇部商業で甲子園上位の常連だった玉国監督も
弔問に訪れていた。
櫨山監督が言った。

「初戦の相手が『栽』の学校と聞くと、身震いしたモンですよ」

鹿児島は沖縄野球にとって、永遠のライバルである。
その鹿児島の名将は、栽弘義を恐れたという。

九州共立大学の仲里清監督は言った。

「栽先生に教えられたことは『選手を信じろ』ということ」

選手を信じてやるところから始まるのだという。



８８年、ベスト４のときの上間主将は、

「僕は、グラウンドでは苗字で呼ばれましたが、二人きりになると『名前』で呼んでくれました。
そんな気もちが嬉しかった」

という。

この人ほど、野球選手としての将来を心配した人はいないだろう。
プロチームが選手を「潰した」と言って何度も怒っていた。
選手の可能性を最も知っていた人だと思う。

５月１１日。
栽弘義さん、６６回目の誕生日である。

私も言葉にならないほど多くのことを教えてもらった。
「さようなら」は言わない。

ありがとうございました。